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へしゃげる。

予定通り7時頃、風の音がピークをやや過ぎたかなと思われたので出航をしました。

海は風波が強くて大荒れ。
今夜は昨日の残りのカレーを食べようと思っていたのに、揺れがひどくてご飯すら炊けない。
波が横から打ち付けてきて、かぶります。
舵を取るパパは何度も波をかぶりました。
私は動ける分回数が少ないとは言えやはりかぶります。
くうまだけは、何とか船室への出入り口に座らせていたので、ひどい濡れ方はしませんでしたが。
船内へ入れようとするのに、くうまは一緒に居たがるのです。
親の緊張が伝わって、一人で居たくないのでしょうかね。
みな、くうまさえ無口になってしまいます。
お腹が空いてきたので、とりあえず菓子パンを皆で頬張って。
こんな時は、チョコレートの味がほんとに美味しく感じますね(涙)
あまり食べても、お腹が空いてしまっても、酔いそう。

「何時?」
「8時半」
そろそろ風が落ちてきてもいい時間なのに・・・。

「何時?」
「9時半」
少しは落ちてきたかも。
それでも心配です。
このままこの揺れと波が続いたらどうしよう。
今日だけは特別に運が悪く一晩中風が吹いていたらどうしよう。

暗くなったので、くうまは昨夜の冷ご飯で梅干のおにぎりを作って食べさせて寝かせることにしました。
くうまは一緒に居たがりましたが、さすがに寒いし、濡れるし、良いことはないので、厳しく言って追い立てました。
こういう時はもう、くうまは我が侭を言いません。
私も「はい」以外の返事を受け付けません。船の旅はかなりくうまに厳しい私達です。

10時半、いつもより遅く、ようやく風が治まってきたので、ご飯を炊くことに。
ラーメンでもいいよとパパは言ったのですが、こんな悲しい状況の時は、特にホカホカご飯が食べたくて。
インスタントラーメンだと気持ちが悪くなりそうだったし。

11時。
妙なことに、また風が吹いてきました。
治まった気もするけど、そうでもない気もする(涙)
波が荒いのと、岬を回るまではそれでも時間を稼ぐために帆を出しているのとで、パパしか扱えない状況です。
私は、荒波を避けられる舵回しも、帆の調節もできません。申し訳ない。
温かいお茶しか入れられません・・・(涙)
パパ、すまんこって。

それでも、一人居ればことたりるので、私を船室で休ませてくれました。
何かの時の為に、疲れていない人間が一人でも居たほうがいいからです。
眠いのだけど、海水をかぶっては震え、コンコンという咳音が耳に入ってくるので、可愛そうで眠れず(涙)
揺れも激しいし。

本当にこのまま、揺れと波と風が続いたらどうしよう。
リスボンまでとにかくたどり着いたとしても、この先ずっと同じ状態だと聞くけれども・・・。
出航してから逆風続きで、このルートで本当にいいのかなぁと迷うことが多かったですが、マジで引き返すことを考えてしまいます。
とんでもなくハードな船旅となってしまいました。

何度となく、パパを覗きに行ったりして。

エレン・マッカーサーのことを想像しました。
2年前かな?この何十倍も寒い南氷洋を、ものすごい強さの風の中で帆を出して、今のKUMA号の何倍もの速度を、流氷を避けながらたった一人で走り続け、世界一周の最短記録を成し遂げた人です。
まだ20代の、しかも女性なのに。
どんな強い意志を持っていたんだろうか。
エレンなんて、風が強くなるほど記録更新の近道だと喜んだに違いない。
どんな育ち方をしたんだろうか。
そんな話を二人でしながら、今のこんな状況なんてエレンに比べたらたいしたことないよねと言い聞かせながら、元気をつけました。
それでも辛いし不安です。

また私は寝に行きました。

夜中の1時半。
パパが私を呼んだので飛び起きました。
セント・ビンセント岬を回ったら、風が落ちるどころか逆風で2ノットしか出なくなってしまったのです。
2ノットだと、ここからsinesまで、この時点で予想到着時間は33時間・・・(汗)
4ノット出てないと、ポルティマオンから22時間で着かないわけです。
今まで何時間も走ってきたのに、岬から33時間もかかってしまうなんて(滝涙)

「二つ道があると思う。
このまま頑張って進んで、次の夜もこのまま船で行って、直接リスボンまで行く。
もう一つは、ポルティマオンに引き返して、考える」

この状況をもう一晩過ごすなんて、子連れの私達には不可能でしょう。
ポルティマオンに戻ることに決めました。
風がやまなかったのは、運が悪くこの日だけのことだったのか。
いつもこの岬は夜でも風が吹いているのか。
計画は失敗に終わりました。

とにかく、戻って考えることにしよう。
このオーバーナイトが無駄になったのは悲しかった。
帰りは追い風とはいえ、やっぱり風は強かったです。
追い風で揺れが少なくなり、やや船体が安定したので、私も見張りを代われました。
パパを休ませてあげないと、身体がどこか壊れてしまうかもと心配だったので、ほっと一息。
一人で見張りに立っている時、ipodがあってよかったと思った。
音楽はこんな時に、辛さを忘れさせてくれるからすごいね。
いろんな曲が入っているのに、最近友人がくれたベストヒットを集めたカーペンターズばかり聞いていた私(笑)
なんというか、単純でわかりやすくて明るい曲じゃないとさ(年がバレますが 苦笑)
Jazzとか聞きたくない気分と言いましょうか(苦笑)

スペイン人はカーペンターズを「カルペンテルス」って言うんですよね。
思い切りローマ字読みです。
ここまでいくなら、スペイン語で大工「カルピンテイロス」って言う方が潔いじゃん?
なんて、くだらないことをつらつら考えてると時間も過ぎるってもんで。


ポルティマオンに到着した時は、空も白んでいました。
暗いと電気のついているマリーナに入れるしかないと思っていたのだけれど、これだけ明るければ湾内でアンカーリングができそう。
フェンダーで隣接する船とにクッションを付けたり、ロープで船体を固定し、オフィスで手続きする、その諸々が徹夜明けには面倒に思え。
錨を打つだけの、アンカーリングにすることにしました。

湾内は静かで、今までの戦いが夢のよう。
私達・・・これからどうするべ?

朦朧と地図を見て考えました。
今は逆風の中リスボンへ行く気力がない。
この風が順風なところといったら、カナリア諸島?マデイラ島?アゾーレス諸島?
もしくは、モロッコを旅するとか。
引き返して今年もバレアレス諸島へ行くということも考えられる。
どこに行くかねぇ・・・。

そう考えながら日が高くなるまで仮眠をとりました。

数時間後、遠くでくうまの部屋の扉の開く音が聞こえてくる。
それからくうまの声。
「あれぇ?同じ街だぞ?同じplaya(海岸)だぞ?同じ灯台だぞ???」
「おかしいなあ・・・???」
考えてることが全部言葉になるから面白いです。
しばらくして、もう一度覗きに行ったらしい。
「やっぱり、おんなじ街ぞぉ???」
外を覗いて一人でつぶやいてました。

私達は自分達の部屋で寝ながら、笑いを噛みころしつつ、なんて説明するか考えました。
「地球を一周したら、元の場所に戻ってきちゃったってことにしようかねぇ」とパパ。
あはは、それはいい考えだ(爆)
そのまま、すーっとまた夢の中に戻ってしまいました。
by tabikuma | 2006-08-19 03:21 | 06年船旅(portugal)

blog「くーまくーま。」より旅だけをまとめたものです。


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