メッシーナで昼食を。

リカルドはマドリッドの富豪なのです。
なにしろ、王宮を見下ろすペントハウスに住んでいるから半端じゃない。

若い頃、セスナのパイロットをしていて、事故で片腕を失っているのですが。
負けん気が異常に強いので、テニスも水泳も何でもやるし、チュニジアの砂漠をバイクで一人旅してきちゃったりする。
なので、当然ながら肩と歯で補ってロープワークから全てを一人でする船長です。

別れた奥さんとの子供二人と、夏の一ヶ月を船で過ごし、子供達が帰ったあとは気ままに一人旅なのだそうな。
今だけ、女友達が1週間乗って二人旅。

写真消失で紹介できないのが残念ですが、これがまた俳優のジョージ・クルーニーに似てるんです。



「で、お前らこれからどこ行くんだ?」
メッシーナ海峡越えて、ナポリを目指すんだよ。リカルドは?

「え~、決めてねーよ」
・・・相変わらず、行き当たりばったりな奴です(苦笑)

「で、今どうするよ?メシ一緒に食おうぜ」
メシかぁ、いいけど、俺達順潮流が終わっちゃう・・・と言いかけたら、リカルドが怒り出した。
「なにぃ!3年ぶりに会った友人ほうって、行くなんて言う気か?俺のうまいワイン飲んでいかんのか!」
ううう・・・う、うまいワイン、飲んでくよぉぉぉ。
やっぱりここで友人よりメッシーナ選ぶのは人非人だよねぇ。

すると、リカルドが畳み掛けるように言った。
「お前らな、俺なんてこの1週間でメッシーナ海峡三度も行ったり来たりよ。順潮流なんてかんけーねぇ!」
この言葉は、目からうろこであった。
みんなが恐れる、世界三大潮流メッシーナ海峡をこんなに軽く言ってしまう人に、はじめて会った(爆)
なんで三度?
と聞いたら、子供の友達家族が帰るのに送っていかなきゃいけなくて一往復して、そして今回ですって(使いっぱしてるのね 笑)
潮流の時間は調べた?って聞いたら、
「んなことするか!そういや逆潮流の時はしばらく止まってたかなあ?わはっは」ときた。
リカルドの話は聞いてるだけで、お腹抱えて笑ってしまう。

もういいや、逆潮流になったらなった時だ、おー!(もうヤケクソ)



ということで、メッシーナ海峡の入り口に強引に錨を下ろして停泊した私達。
リカルドは片腕なので錨を下ろすのが面倒で、船をKUMA号にロープで固定して停泊。
昼食会がはじまったのでした(笑)

私はクスクスのサラダと、ギリシャで買った小玉ねぎ煮の缶詰、オイルサーディンを。
リカルドの女友達は、白いんげんのサラダ、ピクルスを用意して。
そしてリカルドが船底から、とっておき2004年ものの赤ワイン「Pata negra」を出してきた。

泥で汚れたラベルが、なんとも「大そうなワイン」って風貌に冗談と思って笑ってしまった私達。
「どこの泥だよ。すげー尤もらしい顔してんな」ってパパが茶化して言ったら。
「バカ言え。俺のワイン蔵の本物の泥だ」って真顔で言われてしまった。恐れ入りました。
蔵に300本あるらしい。いやあねえ、富豪は(平伏)

え?ワインのお味?
さすがに、ここ数年で飲んだ中で一番うまかったっす。はい(幸)


同い年のリカルドとパパは二人揃うと漫才コンビのようです(笑)
リカルドがブラックジョークバンバン飛ばすのを、パパがボケるわけですが。
これがもう、おかしくておかしくて。


そうそう、リカルドにはこんな武勇伝があるので書き留めておきましょう。
ほとんど一人でふらふら船旅してる彼は、スペイン領バレアレス諸島のイビサ島で、夜に上陸して一人で酒を飲み歩いて遊んでた。
その間に、天候は急変。突然の強風大雨。
真夜中2時。何も気づかず深酒してほろ酔い気分で外に出てみりゃ、海がすごいことになってる。
大急ぎでディンギーに乗って船を停泊させたはずの場所に戻ってみると、なんと!ヨットがないっ。
やっべぇぇぇとキョロキョロ見回すと、遠くに小さな蛍の光が今にも消えそうにゆらゆらと遠ざかっていくのが見えたそうな(苦笑)
あれだ!と思って、ディンギーのエンジンをぶっ飛ばして必死で光を追いかけて。
沖でやっとのことで船を捕まえたが、「あれは大変だったぞ」だってさ(冷や汗)
つい忘れちゃうけど、リカルドは片腕ですからね。
両腕あっても、その荒れた海、強風大雨の中、遠ざかっていく光を追いかけるって泣きそうになりますよ。
私達はkuma号を停泊させて上陸する時、いつもこの話を思い出しては怖くなります。
だから、天候がわかる場所、船の見える場所から絶対離れないし、夜は出歩かないか見張りを置くことにしてました。
リカルドのディンギーエンジンは不幸中の幸いにも、40馬力だったので追いつけましたが、我が家のディンギーエンジンは3馬力(苦笑)ですからね、一旦流されたら船を捕まえられないのは確かなんで(涙)
当のリカルドは、相変わらず各地で船を置き去りにしては平然と酒飲んでますがね(苦笑)


漫才やら、昔話やら、船旅の武勇伝やら、しゃべりまくり。
すっかり全てを忘れて笑い転げながら、長々と昼食会をやっていたら。
船がいきなり小刻みに揺れだし、ガガガガガと鈍い音が聞こえてきた。

なんだなんだ?
何の音か気がついた時には、すでに船が動き出していた。
潮流が変わって、私達の打っていた錨が抜けた音でした。

さすがのKUMA号の錨も、自分より一回り大きな船とKUMA号二艘の重みに絶えられる程じゃかなった。
ゆっくりと二艘は繋がったまま流され始めました。
ゆっくり、ゆっくり。
どんぶらこっこ。
やっばーい!錨打ち直さなきゃ!って言う私を制して。
「放っとけ。しばらくこのままでも問題ねーよ」とリカルドが飲んだくれながら言った。
「よーし、このまま漂っとくかぁ」って、パパもご機嫌。
え~、大丈夫なの?って焦ったけど、確かに案外問題ないみたい。陸にぶつかりそうになったら考えよう(笑)





「よお、このまま一緒に流されていこうぜ。今夜も一緒に停泊しないか?
Taorminaに一緒に戻ろうぜ」って誘われたけど。
6時起きで6時間かけてここまで来たのに、嫌だっちゅーの。
俺たちゃ、ナポリまで急ぐの!と振り切った。
ナポリまで一緒に行こうかな(←行き先なしに航海してる人)と、今度はリカルドが考え出したけど。
二人いて交代で夜間航海できる私達と違って、一人じゃ夜は動けないリカルドなので、足並みは揃えられない。
やっぱり無理なので、ここで別れることに。

じゃな。
ここで別れたら、今度いつ会えるんだろうな。
お前らがマドリから帰る時、もし俺もマドリに戻ってたら、俺んちに泊まれ。
俺のワイン蔵でもっとうまいワイン飲ましてやる。
連絡しろよ。
もし、俺がマドリに戻るのが間に合わなかったら、今度は日本で会うか。
そんなリカルドの別れの言葉でした。

スペインの友人から何度も聞く「日本に行く」とか「日本で会おう」って言葉ですが、リカルドだと真実味があるから、さすがだわ(笑)


そして。
リカルドを残して、KUMA号は逆潮流の中メッシーナ海峡に突入したのでした。



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by tabikuma | 2009-10-30 12:31 | 09年 船旅(最後のクルーズ)

blog「くーまくーま。」より旅だけをまとめたものです。


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